性質がおとなしすぎて困るのに反して、妹のお前はお前で、子供のうちから気が強かった。何か気に入らないことでもあると、一日中黙っておいでだった。そういうお前が私にはだんだん気づまりになって来る一方だった。最初はお前が年頃になるにつれ、ますます私に似てくるので、何だか私の考えていることが、そっくりお前に見透かされているような気がするせいかも知れないと思っていた。が、そのうち私はやっと、お前と私の似ているのはほんの表面《うわべ》だけで、私たちの意見が一致する時でも、私が主として感情からはいって行っているのに、お前の方はいつも理性から来ていると云う相違に気がつきだした。それが私たちの気もちをどうかすると妙にちぐはぐにさせるのだろう。
たしか、征雄が大学を卒業して、T病院の助手になったので、お前と私だけでその夏をO村に過しに行くようになった最初の年であった。隣りのK村にはそのころ、お前のお父様の生きていらしった時分の知合いがだいぶ避暑に来るようになっていた。その日も、お父様のもとの同僚だった方の、或るティ・パアティに招かれて、私はお前を伴って、そこのホテルに出かけたのだった。まだ定刻に少し間が
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