談を持ちこまれてもみんな断わってしまうのを私までがそれをお前の我儘《わがまま》のせいにしているようにお前に向って責めたらしかった。私がそう云ったのは、何もそんなつもりではない位な事は、お前も承知していていい筈だった。それだのに、お前はそのときお前のおばにそんな事で突込まれた腹立ちまぎれに、私の何の悪気もなしに云った言葉をもお前への中傷のようにとったのだろうか。少なくとも、いまお前の私に向ってその話をしている話し方には、私のその言葉をも含めて怒っているらしいのが感ぜられる。……
 そんな話の中途から、お前は急に幾分ひきつったような顔を私の方へもち上げた。
「その話、お母様は一体どうお思いになって?」
「さあ、私には分らないわ。それはあなたの……」いつもお前の不機嫌そうなときに云うようなおどおどした口調でそう云いさして、私は急に口をつぐんだ。こんなお前を避けるような態度でばかりはもう断じてお前に対すまい、私は今宵こそはお前に云いたいだけのことを云わせるようにし、自分もお前に云っておくべきことだけは残らず云っておこう。私はお前のどんな手きびしい攻撃の矢先にもまともに耐えて立っていようと決心し
前へ 次へ
全66ページ中51ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
堀 辰雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング