の松林にかけて、あたかもそれを待ち設けでもしていたかのように、一すじの虹《にじ》がほのかに見えだした。
「まあ綺麗な虹だこと……」思わずそう口に出しながら私はパラソルのなかからそれを見上げた。森さんも私のそばに立ったまま、まぶしそうにその虹を見上げていた。そうして何だか非常に穏やかな、そのくせ妙に興奮なさっていらっしゃるような面持をしていられた。
 そのうち向うの村道から一台の自動車が光りながら走って来た。その中で誰かが私たちに向って手をふっているのが認められた。それは森さんのお車に乗せて貰って来たお前とお隣りの明《あきら》さんだった。明さんは写真機を持っていらしった。そうしてお前が耳打ちすると、明さんはその写真機をあの方に横から向けたりした。私は叱言《こごと》も言えずに、はらはらしてお前たちのそんな子供らしいはしゃぎ方を見ているよりしようがなかった。あの方はしかしそれにはお気がつかないような様子をなすって、すこし神経質そうに足もとの草をステッキで突ついたり、ときどき私と言葉を交《か》わしたりしながら、お前たちに撮られるがままになっていられた。
 
 それから三四日、午後になると、一ぺ
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