も、いま父のこしらえかけている、まだ目も鼻もついていないような、そっけない人形の原型の方が、ずっとかわいらしくて好きだった。が、私はそれが自分の力ではなかなか持ち上がらないことを知ると、こんどはその人形をただ自分の手で撫でてやっているだけで満足した。しばらくそうやって撫でてかわいがってやっていると、その異様に冷たかったものが、ほんの少しずつ温かみを帯びてくる。そのほのかな温かみが――私自身の生《いのち》の温かみのようなものが――子供の私にもなぜとも知れずに愉《たの》しかった。……
父と子
客などがあってにぎやかに食事をしている間などに、私はもう眠くなりかけて、母の胸がそろそろ恋しくなり出しているところへ「お父ちゃんとお母ちゃんとどっちが好き?」などと皆の前で父に訊かれる位、子供心にも当惑することはなかった。そんなときに父は大抵酒気を帯びていた。そしてふだんとは異《ちが》って、しつっこく、私がいかにもてれ臭いような顔をするのを面白がって、いつまでも問いつめているようなことがあった。私は最初のうちは何んとかかとか云い逃《のが》れをしているが、そのうちに返事に窮してくると
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