子で、「……ほら、お前の好きな玉子焼だよ。……ね、一口でもお食べ……」
「……」私は黙って首を振った。
 他の生徒たちは私と同じような小さなアルミニウムのお弁当箱をひろげて、きゃっきゃっと言いながら食べ出していた。例の少女のところでは、二人の小間使いが代る代る立ったり腰を下ろしたりして何かと面倒を見ていた。おばあさんは私にすっかり手を焼いて、それ等《ら》の光景を上気したような顔をして見ていた。私の隣席にいた、雀斑《そばかす》のある、痩《や》せた少女が私に目くばせをして、そのちぢれ毛の少女に対する彼女の反感へ私を引き込もうとしていた。が、私がそれにも知らん顔をしていたので、彼女はしまいには私にも顔をしかめて見せた。
 私はとうとう強情に自分の小さなお弁当箱をひらかずにしまった。
 午後からは折り紙のお稽古《けいこ》があった。例の少女のところでは、小間使いが一緒になって、大きな鶴《つる》をいく羽もいく羽も折っていた。私には折り紙なんぞはいくらやっても出来そうもないので、おばあさんにみんな代りに折って貰《もら》いながら、私は何かをじっと怺《こら》えているような様子をして、自分の机の上ばかり見
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