、ときどき何かのはずみに――丁度そんな幼時の自分の場合に似て、半ば自ら好んでだが、一人きりみんなから仲間はずれにされているような場合に、――私はふいに自分がそんな幼い顔つきをしているのを感ずることがある。そういう場合に、すっかり大人寂《おとなさ》びた私にまで、何んとなく無性に悲しいような、それでいて何んともいえずなつかしい、誰かに甘え切りたいような気のされるのは、思えば、それはこういう自分の幼時に屡※[#二の字点、1−2−22]《しばしば》経験された、切ない感情の思いがけない生れ変りに過ぎないのだということが、いま漸《ようや》く、私にはっきりと分かって来る。……
そういうちょっと誰にともつかず拗《す》ねたような気もちになっていたあとで、私はよく何も知らない母やおばあさんに、何んということもなしに、甘えられるだけ甘えて、いつまでもむずかっているより他《ほか》はしようのない自分自身を見出すのだった。しかし彼女たちだって、私の訴えるものを解せないので更にどうしようもなく、又そういう自分の心が何物によっても癒《いや》されないということが幼い私にも予覚せられていたのだったけれど、ただそうやって
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