Oがそういう時の癖で、何も言わずに、ただ大きく目を※[#「目+爭」、第3水準1−88−85]《みは》りながら私をじっと見つめているのを、苦しいほどまざまざと感じた。

 午後、私ははじめて谷の小屋を下りて、雪の中に埋まった村を一周りした。夏から秋にかけてしかこの村を知っていない私には、いま一様に雪をかぶっている森だの、道だの、釘づけになった小屋だのが、どれもこれも見覚えがありそうでいて、どうしてもその以前の姿を思い出されなかった。昔、私が好んで歩きまわった水車の道[#「水車の道」に傍点]に沿って、いつか私の知らない間に、小さなカトリック教会さえ出来ていた。しかもその美しい素木造《しらきづく》りの教会は、その雪をかぶった尖《とが》った屋根の下から、すでにもう黒ずみかけた壁板すらも見せていた。それが一層そのあたり一帯を私に何か見知らないように思わせ出した。それから私はよくお前と連れ立って歩いたことのある森の中へも、まだかなり深い雪を分けながらはいって行って見た。やがて私は、どうやら見覚えのあるような気のする一本の樅《もみ》の木を認め出した。が、漸《や》っとそれに近づいて見たら、その樅の中か
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