ういふ彫刻的な美しさを君に喚び起しただけに止つてゐてはならない。それはもつと君を人間の悲しみといふものの本質に導いて行かなければならない。あくまでもそこには停滯があつてはならないと思ふのです。
 私は君の質問を讀んで、すぐ以上のやうなことを考へました。君が私にお訊きしたかつたことは君のロダンの彫刻の聯想を私に確かめて貰ひたかつたのでせう。しかし私はそれへの直接の返事は避けて、かういふ事を書きました。しかし、それが現在の私にとつては可能な唯一の返事なのです。
 もう一つの御尋ねの私の作品(「菜穗子」)は、あれでもつて一先づ打ち切つて、今度創元社から上梓します。もう校正も了へましたので、十月半ば頃には本屋に出るだらうと思ひます。
 以上、とりあへず御返事まで。



底本:「堀辰雄作品集第五卷」筑摩書房
   1982(昭和57)年9月30日初版第1刷発行
底本の親本:「堀辰雄小品集・薔薇」角川書店
   1951(昭和26)年6月15日発行
入力:tatsuki
校正:染川隆俊
2010年3月5日作成
青空文庫作成ファイル:
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