や》かしい日和《ひより》を何か心臓がどきどきするほど美しく感じながら、かわいそうなお前の起きてくるのを心待ちに待っていた。お前が私に対する反抗的な気持からあまりにも向う見ずな事をしようとしているのを断然お前に諫止《かんし》しなければならないと思った。その結婚をすればお前がかならず不幸になると私の考える理由は何ひとつない、ただ私はそんな気がするだけなのだ。――私はお前の心を閉じてしまわせずに、そこのところをよく分かって貰うためには、どういうところから云い出したらいいのであろうか。いまからその言葉を用意しておいたって、それを一つ一つお前に向って云えようとは思えない、――それよりか、お前の顔を見てから、こちらが自分をすっかり無くして、なんの心用意もせずにお前に立ち向いながら、その場で自分に浮んでくることをその儘云った方がお前の心を動かすことが云えるのではないかと考えた。……そう考えてからは、私はつとめてお前のことから心を外らせて、自分の頭上の真黄いろな楡の木の葉がさらさらと音を立てながら絶えず私の肩のあたりに撒《ま》き散《ち》らしている細かい日の光をなんて気持がいいんだろうと思っているうちに
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