度も他の患者や看護婦に見つかりそうになっては自分の病室に引き返したりしていたが、漸《や》っと誰にも見られずに露台づたいに療養所の裏口から抜け出した。
 雑木林を抜けて、裏街道を停車場の方へ足を向けた菜穂子は、前方から吹きつける雪のために、ときどき身を捩《よ》じ曲《ま》げて立ち止まらなければならなかった。最初は、只そうやって頭から雪を浴びながら歩いて来て見たくて、裏道を抜ければ五丁ほどしかない停車場の前あたりまで行ってすぐ戻って来るつもりだった。そのつもりで、けさ圭介の母から風邪気味で一週間ほども寝ていると云って寄こしたので、それへ書いた返事を駅の郵便函《ゆうびんばこ》にでも投げて来ようと思って、外套《がいとう》の衣嚢《かくし》に入れて来た。
 一丁ほど裏街道を行ったところで、傘を傾けながらこちらへやって来る一人の雪袴《たっつけ》の女とすれちがった。
「まあ黒川さんじゃありませんか。」急にその若い女が言葉を掛けた。「何処へいらっしゃるの?」
 菜穂子は驚いてふり返った。襟巻ですっかり顔を包み、いかにも土地っ子らしい雪袴姿をした相手は、彼女の病棟附きの看護婦だった。
「ちょっと其処まで……
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