菜穂子
堀辰雄

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)その儘《まま》に

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)丁度|午餐《ごさん》後

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)目を※[#「目+爭」、第3水準1−88−85]《みは》る
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  楡の家

   第一部

[#地から1字上げ]一九二六年九月七日、O村にて

 菜穂子、
 私はこの日記をお前にいつか読んで貰うために書いておこうと思う。私が死んでから何年か立って、どうしたのかこの頃ちっとも私と口を利こうとはしないお前にも、もっと打ちとけて話しておけばよかったろうと思う時が来るだろう。そんな折のために、この日記を書いておいてやりたいのだ。そういう折に思いがけなくこの日記がお前の手に入るようにさせたいものだが、――そう、私はこれを書き上げたら、この山の家の中の何処か人目につかないところに隠して置いてやろう。……数年間秋深くなるまでいつも私が一人で居残っていたこの家に、お前はいつかお前の故に私の
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