仕つけられると思へる? 母親がゐなくなつたら忘れてしまふだらうか?
アンナ まあ、何をおつしやいます。ゐなくなつたらですつて?
ノラ あのねえ、アンナ――私いつもさう思ふのだけれど――どうしてお前は自分の子供を他人にやることが出來たの?
アンナ ノラさんをお育て申すことになつて否應なしにさうしたのでございます。
ノラ けれども、どうしてそんな決心がついたの?
アンナ それはあなた、いゝ口が見つかつたのでございますもの。女の身で、年は行かず頼る所はなし、不幸續きでゐたのでございますから、何だつて見つかつたものを取り逃してはなりません。あの薄情男めは何一つ私の世話をしようともしなかつたのでございますよ。
ノラ それぢや、お前の娘さんは、お前を忘れてしまつただらうね。
アンナ ところがそんなことはございませんよ、奧さま。忘れないものと見えましてあれが聖體式を受けました時と結婚しました時には、手紙をよこしました。
ノラ (アンナを抱きながら)ねえ婆や、お前も年を取つたねえ――私小さい時は本當に母親も及ばない世話になつたつけ。
アンナ あの頃のノラさんは本當にお可哀さうでしたよ、お母さまはいらつ
前へ 次へ
全147ページ中61ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
イプセン ヘンリック の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング