たとは關係を絶つてゐますよ。
クログスタット (一歩進みながら)お聞きなさい奧さん、あなたは健忘症でいらつしやるやうだ。それとも實務上のことはまるでご存じないのですか。まあ、私がすつかり、事情を呑込ませて上げませう。
ノラ どうしたといふんです?
クログスタット ご主人がご病氣の時に、貴方は私の所へお出でになつて、千二百ターレル貸してくれとおつしやつた。
ノラ 他に懇意な方もなかつたものですから。
クログスタット で、私はその金を拵へて上げませうとお約束をしました――
ノラ そして、拵へて下すつたぢやありませんか。
クログスタット そのお約束をする時に私は條件を持ち出しましたね。あなたはその時ご主人の病氣に氣をとられて、旅行の費用を拵へたい一心でお出でになつたから、細かいことには碌々氣がつかなかつたかも知れません。ですから私がそれをここでお話して上げます。その時の約束は、私が書いた手形と引換にそのお金を拵へて差上ようといふのでしたな。
ノラ えゝ、それで私はその手形に署名しました。
クログスタット それに相違ありませんな。けれども、その時私は後から二三行つけ加へて、あなたのお父さんに保
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