地位が保つて行けるやうにご盡力下さい。
ノラ なせ、そんなことをいふんです? 誰もあなたの地位を奪やしないでせう?
クログスタット あ、そんなに白を切らなくともいゝですよ。あなたのお友達が私に會ふのをいやがつてることも、そのため私が逐ひ出されなくちやならないことも、私はよく呑み込んでゐますよ。
ノラ だつて私は決して――
クログスタット まあ、何でもないことです。まだ後れてはゐませんから、一つ、そんな目に會はないやうにあなたの權力を揮つて下すつたらと、ご相談申すのです。
ノラ ですけどクログスタットさん、私何も權力なんかありやしません。
クログスタット 權力がない? しかし唯今伺つたところぢやあ――
ノラ 勿論、そんな意味ぢやなかつたのですよ。私なんぞ――どうして主人に對してそんな權力があるものですか。
クログスタット いや、ご主人のことは大學にゐた頃からよく知つてますが、奧さんに對してさう強硬な態度を取れるたちぢやありませんな。
ノラ あなた、手前どもに對して失敬なことをおつしやるなら、お歸りを願はなくちやなりませんよ。
クログスタット 思ひ切りがいゝですな、奧さん。
ノラ 私もう貴
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