にどのくらゐ借金しました。
ノラ さうね、正確にはわかりませんわ。そんなことといふものは、はつきりさせておくことのむづかしいものですからね、私たゞ丹念に集めて來ただけの金を、すつかり拂つて來たことは知つてゐます。時々は實際何處へすがつていゝかわからないこともありました(微笑して)その時には私、いつも此處に坐つて想像して見ますの、誰かお爺さんの金持があつて私を愛してくれて――
リンデン え、誰ですつて――
ノラ なあに誰でもないんですよ――そしてその人が死んぢやつて遺言状を開けてみると大きな字で「予が死する時所有せし一切の財産を直ちに彼の愛らしき人ノラ・ヘルマー夫人に讓渡すべし」と書いてある。
リンデン ですけど、ノラさん、あなた誰のことをいつてるのです?
ノラ おや/\、わからないのですか? 誰もお爺さんがゐるのぢやありません。たゞいつも私がお金の工面に盡きた時、獨りで想像して見る人なのですよ、だけど、もうそんなこともいらなくなりました――あの辛氣《しんき》くさい爺さん、私に用があるなら何處にでも待つてるがいゝや。私、そんな人に用もなければ遺言状にも用はない、私の心配ごとはもうすつかり
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