すから私、最初に外交術を使ひましたの、それくらゐのことをしなくてどうするものですか。若い内は何處の細君でもやるやうに、外國旅行が是非したいといつて頼みました。泣いてせがんでやつたのですよ。私のことも考へて下さい、私のいふことに逆つてはなりませんてね。そしてお金は借りたらよからうと、それとなくいつたのです。さうすると、あなた、怒鳴らないばかりに怒りましてね、輕噪《けいさう》な奴だ、そんな出來心や空想は止めるのが夫の役目だといふのです――出來心や空想ですとさ。そんな風ですから、私は、よろしい、とにかく命は救つて上げなくちやあならないと決心しましてね、その方法を立てたのですよ。
リンデン そしてお宅では、そのお金のことを、先方からお聞きにはならなかつたのですか?
ノラ いゝえ、ちつとも。ちやうどその間際に父が死んだのですよ。私父に話して、宅へは何もいはないやうに頼んで置かうと思つたのですが、病氣が募つて――可哀さうに、口止めする必要もなくなつてしまひました。
リンデン で、御主人には何も打ち明けてはいらつしやらない?
ノラ 飛んでもないこと。あなた一體何を考へていらつしやるの? 借金といふこ
前へ
次へ
全147ページ中24ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
イプセン ヘンリック の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング