さう思つたのですよ。
ノラ 盡力させますとも。そのことはすつかり私にお任せなさい。私が何かあの人の氣の向くやうに旨《うま》いことを考へて、見事にやらせて見せます。本當にまあ私、何かあなたのおためになるやうなことがしたいわ。
リンデン 美しいご親切ですわねえ。美しいといへば、あなたのご氣性は本當に美しい、浮世の荒い波風に揉まれていらつしやらないから。
ノラ 私が? 揉まれてゐないんですつて――?
リンデン (微笑しながら)さうですね、少しばかりの内職くらゐのものでせう。全くのねんねえでいらつしやるのですよ。
ノラ (頭を立てゝ室内を歩く)おや/\、そんなにねんねえ扱ひにするもんぢやありませんわ。
リンデン ぢやあないんですか?
ノラ あなたも外の人と同じことねえ、みんな寄つてたかつて、私をまるで眞面目なことの出來ない人間にしてしまつてよ。
リンデン それはね――
ノラ 私、この窮屈な世間の苦勞をまるで知らないと思つてらつしやるのね。
リンデン だつてノラさん、あなたは今、これまでの苦勞をみんなお話なすつたぢやありませんか。
ノラ ほゝ――あんな詰らないこと! (柔かに)私まだ大事件をお話
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