自分自身や周圍の社會を知るために、私は全く一人になる必要があります。ですから、この上あなたと一緒にゐることは出來ないといふのです。
ヘルマー ノラ! お前!
ノラ 私はすぐ行かうと思ひます。今夜はクリスチナさんが泊めてくれませうから――
ヘルマー お前は氣が狂つた。俺はそんなことは許さん。禁じますぞ。
ノラ 今となつて何を禁じようとおつしやつても無駄です。そんなことは無用ですよ。それでは私、自分の身の廻りの物を持つて行きます。あなたからは、この後も一切お世話にならない積りでゐます。
ヘルマー 狂氣の沙汰だな。
ノラ 明日、私は生れた所へ行きます。
ヘルマー 生れた町へ!
ノラ 生れた町といつても今は何にもありませんけれど。何か生活の便宜があるかと思ひますから。
ヘルマー どうしてお前のやうな何もわからない世間知らずが――
ノラ ですからあなた、生活の經驗を積む工夫をしなくちやなりません。
ヘルマー それで家も夫も子供も振り捨てようなんて。お前は世間の思はくといふものを考へてゐない。
ノラ そんなことには構つてゐられません。私はたゞしようと思ふことは是非しなくちやならないと思つてるばか
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