どうでせう、主人が銀行の支配人になつたんですよ。
リンデン ご主人が? ほんとにお仕合せねえ。
ノラ えゝ、まあ、辯護士なんてものは、きまつた當のない職業ですからね。ちよつとでも暗いことのある仕事はすまいとなると尚のことさうですし、主人は勿論暗いことが大嫌ひで、私だつてその主義ですから、とてもやり切れませんわ。それで今度は私ども、どんなにか喜んだでせう? 新年からそつちへ行くことになつてるのですよ。給料もどつさり取れて配當もあるんですからねえ、これからは、すつかり今までと違つて見違へるやうな暮しができます――實際どんな暮しでも好きなことができるんですよ。あゝ私、本當に氣が浮き/\して幸福ですの。お金が澤山あつて心配ごとは少しもなし、申分ないでせう。
リンデン えゝ、いるだけのものが取れゝばね、幸福に相違ありません。
ノラ いるだけぢやありませんよ、お金が山ほど――山ほど取れるんですもの。
リンデン (微笑しながら)ノラさん、あなたはいまだにねんねえですのねえ。ご一緒に學校に行つてる頃から、大變お金を使ふことの好な方でしたつけが。
ノラ (靜かに微笑しながら)えゝ今でもさうですつて、トル
前へ 次へ
全147ページ中14ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
イプセン ヘンリック の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング