りましたよ、わかりましたよ。あなたはすつかり私のことばかり考へていらつしやるのでせう!
ヘルマー さうして、歸る時には、お前のそのすべ/\した柔かな肩から輝くやうな首のあたりへショールをかけてやつて、私はお前を花嫁だと想像してみる。結婚式が丁度濟んで、お前を始めて私の家へ連れて來る。そして始めて、たつた二人で全く他人を交ぜないで差向ひでゐると、お前の震へてゐるのが何ともいへず美しい。こんなことを考へて、今夜は、私、一晩中、たゞもうお前のことばかり思ひ詰めてゐたよ。お前がタランテラを踊つて身體を搖つたり、ぐるぐる廻つたりしてゐるのを見た時には――私の血は煮えくり返つた――愈々我慢がし切れなくなつて、それで私はあんなに早くお前を連れて歸つたんだよ。
ノラ あなた! あちらへ行つて下さいよ。そんなことは聞きたくないから。
ヘルマー どういふ譯なんだ? あゝ、お前は俺をじらしてゐるな! いけないよ――いけないよ、私はお前の夫ぢやないか。
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(外の戸を叩く音)
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ノラ (立ち上る)聞えましたか?
ヘルマー
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