あることに應じて、主體は自己をそれにおいて表現しつつ、顯はになつた自己としての客體の蔭に隱れて息ひを樂しまうとする。しかも觀想が觀る働きであり、觀られるものと觀るものとの關係交渉において成立つ以上、客體は飽くまでも他者の位置に立たねばならず、いかに短縮されるにせよなほいくらかの隔りにおいて主體に對立せねばならぬ。從つてその限りにおいては安息の目的は達せられず、活動としての性格は依然殘る。このことは時間性が依然克服されずに留まることに外ならぬ。さて然らば活動性從つて時間性の克服は何を意味し何によつて達せられるであらうか。他者性の克服を意味し又そのことによつて達せられるであらう。先づ客體面における他者性は次第に稀薄に、客體相互の間の聯關はますます緊密になるであらう。聯關そのものは主體の自己性の表現であり、從つて同一性に根ざし同一性を意味する故、聯關の緊密化は内容の同一化でなければならぬであらう。論理的法則の支配をますます強化する哲學は、かくして必然的に一者(プロティノスの用語に從へば to hen)――すべての他者及び他者性に打勝つた一者――の觀念に到達するであらう。全體性乃至無限性は必然
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